カプリスのかたちをしたアラベスク

このブログはフィクションです。詳しくはプロフィール参照。

【最近のできごと】

文学ムック「たべるのがおそい」の編集などを手がける西崎憲主宰の電子書籍レーベル「惑星と口笛ブックス」より
ぼくの初の単著となる短編集「コロニアルタイム」が発売されました。

また同レーベルより発売中のアンソロジー
「ヒドゥン・オーサーズ」

にも短編を寄稿しています。
この本は新潮社が発行している雑誌「波 2017年7月号」で
王様のブランチでおなじみの書評家・滝井朝世さんにも取り上げていただいています。


遠藤周作がセンター試験で出題された思い出とその周辺の話

この一週間で2本、遠藤周作の作品の書評を寄稿した(『海と毒薬』『沈黙』)。

 

海と毒薬/遠藤周作:あらすじ&書評『<何が>彼らを殺したか』

沈黙/遠藤周作:あらすじ&書評「奇跡なきこの世界で我々が考えうること」

 

遠藤周作で記憶に残っていることといえば実はセンター試験で、ぼくが麗しの(?)受験生だった2005年の国語で、『肉親再会』が出題された。非常に短い小説で、たしか本文が全文掲載されたらしく、こういう出題をするのはなかなか粋だ、などと入学したあと塾講師をしている友だちがいっていた。

『肉親再会』は芸術家に憧れを抱いている「私」が、パリにいる妹を訪れるお話で、いろいろと貧しい生活をしながらも芸術に献身する妹の精神に、私は敗北する。その敗北を「コートが汚れる」というシーンに凝縮させることで小説全体が短いながらも重さを持つに至っている。

これをはじめて読んだとき、ぼくは試験中だったのもあり、そしていまほど小説というものに興味がなかったということもあり、特になにも思わず「ダルい文章だな」くらいの感想しか持たなかったはずだ。

ただ、先日『沈黙』を読み、そこで描かれる信仰のありようのことを考えると、やはりこれは遠藤周作的な、いや、遠藤周作ならではの作品だったんじゃないか、と思うに至った。「第三の新人の典型みたい」といわれればわからなくもないところがあるけれど、思慮深い遠藤周作ならではの「二重性」が、かれの作品に個性を与えている。

 

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ライトノベルのタイトルに使われている単語を統計分析でぶん回してみた(ウォーミングアップ編)

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普段は自宅でキーワードライティングとかそういうやつを書く「記事ドカタ」をしているのだけど、「キーワード3つで40字以内でタイトルつけろ!」という注文がめっちゃ多い。

 

www.waka-macha.com

 

でも、常識的に考えて40字の中に指定情報3つって割合的に多すぎて、出来上がったものをみると「ラノベ感」がすごいある。

そこでぼくはピーンときたわけで、次の瞬間「ライトノベルはSEO対策的な発想でタイトルや作品案をひねり出しているんじゃないか」と考えていた。

実際に「SEO的想像力」が駆動力となっているかを確認することは難しいけれど、統計をとり語彙の関係性を視覚化することで計量的な観点からの仮説立てくらいならできそうだ。

こいつら、絶対ヤッてるな……!

 

と、いうわけで無駄話をしていたら今日は特に長くなるので、早速本題に入りたいと思う。

「約1800作のライトノベルのタイトル」を使って、簡単なテスト計算をやってみた。

以下そのまとめを記しておく。

なお、本エントリーはあくまで「テスト計算」であり、サンプル数も少なくライトノベル業界全体をカバーには確保に至っていませんし、調査方法も確立していません。したがって今回の結果はまだ確からしさの確保に至っていないことにご注意ください。

 

目次

 

準備

調査範囲

ライトノベル作品全部を網羅するのには結構骨が折れるため、手始めに今回は、

  • 角川スニーカー文庫
  • 電撃文庫
  • 富士見ファンタジア文庫
  • GA文庫
  • MF文庫J

の5つのレーベルが2015年〜2017年に出版した作品で統計をとることにした。

(参照サイト:ラノベの杜

 

表1:調査レーベルの作品数(2015年〜2017年)

レーベル 出版総数 新作数 新作率
角川スニーカー文庫 245 108 0.44081633
電撃文庫 471 190 0.40339703
富士見ファンタジア文庫 431 109 0.25290023
GA文庫 368 96 0.26086957
MF文庫J 353 127 0.35977337
総数 1868 630 0.3372591

 

ちなみに、冒頭では「約1800作品扱った」と行ったけれど、そのうち7割がシリーズものだったので、タイトルに含まれる単語の頻度分析を行う際は、残りの3割が対象になるということに注意が必要だ。そうしなければ特定のシリーズを強く反映してしまう。よって以下では、「新作」のみを対象としている。

ちなみに旧作か新作かは目視で判別したのでめっちゃしんどかった。

画面を凝視しすぎて目は充血し、マウスを握った手はしびれています。

 

さてはて、一旦脇道に逸れるけれど、この「新作率」はなかなか面白い。

これを眺めてみると、角川スニーカー文庫は新作が多く(新人発掘に力入れてる??)、GA文庫はシリーズ続きやすい(人気作をバンバン出してる?)みたいな想像ができて意外と楽しい。もちろん、あくまで仮説だよ。検証してないよ!

 

使用ソフト

言語分析などの研究で広く使用されている「KH Coder」を使用した。

http://khc.sourceforge.net/

ちなみにこのソフト、某25歳素人童貞の風俗調査でも使用されているやつです。

 

shirotodotei.hatenablog.com

 

比較データとして「アニメ化されたライトノベル」を分析

こちらはサンプル数を稼ぐために2000年〜2018年に放送されたもので分析した。

こちらももちろん1期のみを分析対象とし、その数は234作だった。

ちなみにデータはWikipediaから引っ張ってきた。

ライトノベルのアニメ化作品一覧 - Wikipedia

 

結果など

というわけで結果をちゃっちゃと簡潔に紹介しよう。

語彙の出現数・出現率

ラノベタイトルの頻度分析結果はこんな感じ。

頻出単語上位25位はこちら↓

表2:頻度分析(ライトノベルのタイトル)

 No. 抽出語 出現回数 出現率
1 異世界 58 0.092063
2 世界 35 0.055556
3 英雄 28 0.044444
4 勇者 28 0.044444
5 魔法 23 0.036508
6 22 0.034921
7 最強 21 0.033333
8 少女 21 0.033333
9 20 0.031746
10 魔王 19 0.030159
11 エルフ 18 0.028571
12 18 0.028571
13 18 0.028571
14 17 0.026984
15 騎士 16 0.025397
16 魔術 16 0.025397
17 チート 15 0.02381
18 ゲーム 14 0.022222
19 学園 14 0.022222
20 転生 13 0.020635
21 青春 12 0.019048
22 12 0.019048
23 見る 11 0.01746
24 始める 11 0.01746
25 10 0.015873

 

やはりというか、「異世界」が圧倒的強さを見せ、他の追随を許さないぶっちぎりの1位!

しかも他の単語も異世界を中心としたファンタジー系の単語が目立つのも特筆すべきことだ。8位の「少女」と14位の「妹」以外で上位15位はすべてファンタジー系語彙だ。

日常系が強くなってきたとは思っていたけれど、なんだかんだで「ファンタジー」がラノベの王道なんだなとしみじみ思った。もちろん、これは単なる印象です。

 

あと、参考だけどアニメ化ライトノベルの方はこんな感じ↓

表3:頻度分析(アニメ化したライトノベル)

No. 抽出語 出現回数 出現率
1 魔法 6 0.025641
2 勇者 6 0.025641
3 異世界 5 0.021368
4 魔王 5 0.021368
5 学園 4 0.017094
6 4 0.017094
7 戦記 4 0.017094
8 4 0.017094
9 4 0.017094
10 ソード 3 0.012821
11 3 0.012821
12 3 0.012821
13 這う 3 0.012821
14 物語 3 0.012821
15 3 0.012821
16 アート 2 0.008547
17 アリア 2 0.008547
18 アル 2 0.008547
19 オンライン 2 0.008547
20 ガール 2 0.008547
21 キノ 2 0.008547
22 スる 2 0.008547
23 スト 2 0.008547
24 ダンジョン 2 0.008547
25 テレビ 2 0.008547

 

そもそもサンプル数が足りてないという結果だと思われる。

出現回数がそもそも少ないので、もうちょい母集団が大きくないと何にも言えないなぁという感じだ。まあそうだよねぇ。

また、割と意味のない単語がちらほら現れてしまったので、このへんの調整は今後の技術的課題にしたいと思う。まぁ、ビギナーズラックということで許しておくれ。

 

 

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Fig.1 出現率のグラフ。左から大きい順に並べている。(青)ライトノベル作品、(オレンジ)アニメ化作品。

 

サンプルの年代も数も青とオレンジでかなり違うので比較にあまり意味はないけれど、青の1位「異世界」がこうしてみるとかなり突出しているということがわかりやすい。2010年代中期は「異世界の時代」と言えるほど、やはり異世界作品が乱発していた。そりゃあ「なろう」も異世界禁止令出すわ。

ちなみに、べき乗則とかその辺のものに「ラノベのタイトルに使われる語彙」も従っているならば、このグラフの形は結構妥当に思える。

本当はなんやかややって両対数グラフを描いて直線!みたいな処理をするとその主張ができるのだけれど、まぁ見た感じそうなりそうだな思う。このへんも今後ちゃんと検証したいポイントだ。

 

狂気共起ネットワーク

この分析でもっとも「華やか」な結果がこの「共起ネットワーク」だ。これについては「ラノベのタイトル」の方でのみ作ってみた(Fig. 2)。

「共起」とは馴染みのない言葉だけれど、これは言語学の分野で「任意の文書や文において、ある文字列とある文字列が同時に出現すること」を示す言葉だ。そして互いに共起する文字同士は「共起関係にある」といい、「共起ネットワーク」はそれを視覚的に捉えるために行う図示である。注意すべきことは、「共起」と「頻出」は全く別のデータであるということだ。「頻出」は単発のトレンドを示すのに対し、「共起」は関係性の強さを示す。つまり、このネットワークは「想像力の構造」のようなものを視覚化しているわけである。

 

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Fig.2 ライトノベルのタイトル(2015年〜2017年)における共起ネットワーク

 

Fig.2はまだまだデータとしては調整が必要だけれども、これをみると「最強」が割とテーマとしてホットなものであるという解釈ができるかもしれない。あくまで、「今回のサンプルのなかでは」という話ですがね。

この図で濃いピンクになるほど、さまざまな文字列と強い共起関係にあるという風に読める。ちなみに「最強」を含むタイトルをいくつか以下に書き出してみる。

  • 千剣の魔術師と呼ばれた剣士 最強の傭兵は禁忌の双子と過去を追う
  • アウトサイド・アカデミア!! 《留年組》は最強なので、チートな教師と卒業します
  • スティール!! 最凶の人造魔術師と最強の魔術回収屋
  • 最強をこじらせたレベルカンスト剣聖女ベアトリーチェの弱点 その名は『ぶーぶー』暗殺拳はチートに含まれますか? ~彼女と目指す最強ゲーマー~
  • マンガを読めるおれが世界最強 ~嫁達と過ごす気ままな生活
  • 魔力ゼロの俺には、魔法剣姫最強の学園を支配できない……と思った?

なんというか、「俺TUEEEE!臭」で胸焼けしそうだ……。

ともあれ、ライトノベル批評(そんなの真面目にやっている人いるのかわからないけれど)で、俺TUEEEE!の批評をガッツリやっている人は見ないのだけれど(宇野常寛がサヴァイブ系とか、そういう感じのジャンル批評をしていたけれどそれが近いかもしれない)、「最強」を批評テーマにおいてやってみるのもありかもしれない。

※追記(2018.2.2):「ブタ」界隈のデータに関して、「青春ブタ野郎シリーズのタイトルが反映されてしまっている」という指摘を受けました。該当シリーズの初作品「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない(電撃文庫)」は2014年の作品であり、今回の調査対象外の作品でした。申し訳ございません。元のデータが膨大なため、こうした指摘は「実践編」を行う上で非常に助かります。気づいたことがあれば教えてください。

 

まとめ

感想

ということで、ウォーミングアップはおしまい。ほとんどソフトの使い方の確認に終始してしまっていて、レーベレの網羅(現状では偏ってるし)、サンプルの精査や固有名詞の処理方法などやらなくちゃならないことが非常に多いので、「実践編」を公開できるようになるまではまだ時間がかかりそうだな……といったところ。

ま、こういうこともできるって話ですね。ここでは結論めいたことをいうつもりはひとつもありません。見ての通り、まだ議論できるような結果が出てない。

年代別、レーベル別、さらにはライトノベル以外の作品タイトルにも手を伸ばして、共起関係を比較したりすると面白くはなりそうだ。ぼくは知ることができればそれでいいと思っている人間なので、売れる・売れない論争とかそういうのはぶっちゃけどうでもいい。というか、こういう話をしたらそういう話に散々巻き込まれてきたので、もううんざりしている。

この分析は個人的にそれなりにおもしろいテーマだと思ってはいる。

ただねぇ、これ、データ整理超大変なんよ……。

しかし今回でKH Coderの使い方もだいたい把握したので、時間を見つけてゴリゴリ分析したい(願望系)。

※追記(2018.2.2): 論文のデータ捏造などが騒がれるなか、ヒューマンエラーが含まれているこの記事を公開し続けていて良いものか一瞬迷いましたが、本エントリーはあくまで計量分析のウォーミングアップという位置付けで当初より公開していることをご了承ください。(言い訳ごめん!)

本格的な分析に向けて、みなさまのご意見を聞きながらデータの精度を上げていきたいというスタンスでやっていきますので、ご指摘などあればこっそり教えてください。

 

結局ラノベって「SEO対策」をヤッてんのか?

エンタメ小説のなかでもラノベはターゲット層がはっきりしているから、訴求の強い企画を作ろうとすると、やはり統計では明らかな傾向が出てくると思う。

この分析をやっても傾向らしい傾向が見られない分野は、たぶん「未開の地(ブルーオーシャン)」かもね……!

そういう話は過去記事のコレで詳しくしています↓ あわせてどうぞ!

www.waka-macha.com

 

まあ、ブルーオーシャンっつても、魚がいないだけかもだけど……!

 

いわゆる「遠読」

今回、やったみたいな語彙の構造とかそういうのでガチガチに批評していく方法もあるらしい。

「遠読(フランコ・モレッティ)」って本にそのことが書いている感じなので、興味がある方はどうぞ。

ちなみにぼくは、共起関係を調べて「最強」が結構重要なポジションにあることから、批評対象として妥当なんじゃないかみたいなことを行ったけれど、こうした統計処理は完全に真に受けるよりも「目星をつける」くらいの信用で止めておいた方が良いとおもう。

 

募集とか

ライトノベル以外にも「こういう分析やって!」みたいなことも募集します。

ご希望などあれば、Twitterとかブコメで気軽にご連絡ください。

体力に余裕があって、気が向いたときにやります……!

 

ではでは、今日はここまで!

ありがとうございました。

「クソアニメ」とは何か?――表現形式としての「クソアニメ」/アニメ『ポプテピピック』評

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今日はひさびさにアニメの話をします。

 

目次

  • 『聖剣伝説レジェンド・オブ・マナ』とアニメ『ポプテピピック』
  • アニメを「クソアニメ」にするものとは
    • 変化する「クソ」という評価
    • 「クソ」への偏愛
  • アニメ『ポプテピピック』の「わたし性」の喪失
    • 創作物の「わたし性」
    • ポプ子とピピ美って「誰」なのか?
  • まとめ/結局「クソアニメ」とは何か?

 

『聖剣伝説レジェンド・オブ・マナ』とアニメ『ポプテピピック』

そういえば、最近は任天堂から昨年秋に発売されたちっちゃいスーパーファミコンにはまっていて、FF6のラスボス「ケフカ」をロックのバリアントナイフ×ライトブリンガー8回攻撃で辱めるのもそろそろ飽きてきたので聖剣伝説2へと切り替えた。

 

 

聖剣伝説2は小学校の4年生くらいの時にやっていた気がする。

各武器・魔法のレベルをMAXまで上げるのが相当ダルかった記憶が強烈にあるけれど、とにかく音楽がすごい好きだった。ボス戦の「ちゃらら!ちゃらら!ちゃらちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!」的なやつとか、いまでも聞けば血湧き肉躍る。

90年代に多くの名作RPGを残してきたことはスクエアであるけれども。聖剣伝説シリーズではプレイステーションの「レジェンド・オブ・マナ」が特に好きだ。

レジェンド・オブ・マナについて、先日ぼくはこんなことをつぶやいた。

 

 

レジェンド・オブ・マナは世界観(=システム、形式)は用意されているけれども、主人公の明確な人格や、統一的な大きな物語は用意されていない。

ここでは「大きな物語のただなかにある私たち」という立場は取られておらず、「小さな物語(あるいは物語未満の物語)」を発見するという行為にこそ作品としての創意が顕在化する。つまり、物語そのものが世界について自己主張するのではなく、「環境」として世界があるに過ぎない。

こうした「大きな物語に支配されない私たち」が尊重されたゲームはもちろんいまじゃ全然めずらしくないし、さらに自由度を広げながらネトゲのほうで非常に大きく発展した。ぼく自身はネトゲをやらないひとなので、ゲームについての言及はこの程度に止めておく。

 

この記事はいま話題をかっさらっているアニメ『ポプテピピック』についてレビュー記事であるにもかかわらずこういう話をしたのは、この作品が持つ「自由さ」について考えを進めるうえで、こうしたゲームの流れを漠然と感じたからだ。

もちろん、たまたま最近ぼく自身が聖剣伝説にハマっていただけ、ということは否定できないけれど、表現としてアニメ『ポプテピピック』で何が起こっているのかを、以下ではちょっと真面目に考えてみたい。

 

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【書評】若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」(芥川賞受賞作)/「思考の言語」と「体験と肉声」

※このエントリーには若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」の感想を書いていますが、ネタバレはありません。というか、ネタバレ云々の小説じゃないです。

 

満二十四歳のときに故郷を離れてかれこれ五十年、日常会話も内なる思考の言葉も標準語で通してきたつもりだ。なのに今、東北弁丸出しの言葉が心の中に氾濫している。というか、いつの間にか東北弁でものを考えている。晩げなのおかずは何にすべから、おらどはいったい何者だべ、まで卑近も抽象も、たまげだごとにこの頃は全部東北弁なのだ。というか、有り体にいえば、おらの心の内側で誰かがおらに話しかけてくる。東北弁で。それも一人や二人ではね、大勢の人がいる。

若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」

 

いまぼくがなにを考えているのかということが、たまにじぶん自身でもわからなくなるときがある。

それは「思考というものはいったいどこから湧いて出てくるのか」なんていう問いにもなるし、そうした一連の認識や問いはすべて言語によってもたらされているという感覚がある。

しかし科学的な立場からみると、「言語が人間に思考を与えている」ということはないらしい。世界には数学教育を一切受けなかった男性が「数(すう)」の概念を持っていたという事例があるのだけれど、そのことをおもうたびに、もしこの宇宙が存在しなくても「1+1=2」が絶対的にそうなんだ!というおもいが強くなる。読みかじっただけのスティーブン・ピンカー「言語を生みだす本能」によれば、ぼくらは日本語や英語といった自然言語でものを考えているというわけじゃなく、その手前に「思考の言語」みたいなのがあって、それがぼくらに思考をうながしているのだという。

 

 

先日芥川賞を受賞した若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」はまさにこの思考の言語に焦点をあてた小説だった。桃子さんという東北に生まれ育ち、東京オリンピックの時期に上京して以後50年以上この街で暮らしてきた。息子と娘は家を出て、夫には先立たれた。この老女はいま、ひとりで生きている。

そうしたひとりぐらしのなか、桃子さんはじぶんの体内に「東北弁のわたし」がいることに気づく。桃子さんはこの50年を生き抜くために、標準語で生活して標準語で思考してきたけれど、人生の終盤になって体のなかに東北弁が溢れ出す。そんな肉声を小説的技術によってひきずりだしたような小説だった。

 

目次

  • 語りと文体はちがう
  • 「体験と肉声」の時代?

 

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とくべつじゃないものを「とくべつ」とみなすこと。

 

あけましておめでとうございます、というにはすこしばかり遅くなってきて、いまさら正月の話をするのはことし一年の抱負とかそういう「これから」なかんじじゃなく、「これまでの2018年」に近い印象を持ってしまう。

新年とかクリスマスとか節分とかバレンタインデーとか、そういう節目節目の「とくべつ」はどうも苦手だ。

たぶん、こういった「とくべつ」を噛み締めたりクンニリングスしたりできる才能を「情緒」というのだろう、とふとおもったがそれはちがうとすぐにおもう。たぶん、いまあるとくべつよりも「とくべつじゃないものをとくべつと見なすこと」こそ、才能たる情緒だ。

小説でもブログでも日記でもなんでもいいのだけれど、言語表現としてなにかを書き留めておくというのはこの「とくべつ化」ともよべる情緒が必要になる。

情報エントロピーというものを大学生のときに本で読んだ。情報とはある種の不規則性というか、「それまでのパターンに回収されないもの」みたいに解釈できるらしく、まさに書き留めることが可能な「とくべつ」とはそんなものなのだろう。

 

ブログを書きはじめて、おそらくは6年くらいになる。

 

はじめこのブログはぼくが海外留学していたときに、日々起こる「とくべつ」を記録するためのものとしてつくった。

研究のこととか、小説のこととか、アメリカでみたものの写真とか、研究のパートナーだったインド人のアンキットのお家とか、そういう過去のすべて「とくべつ」で、いまなおそうだ。アンキットにしろ、三回ほど口を開けば一度は「ふぁ◯く!」と叫ぶ妻子持ちの大学院生だったジェイソンも、ちびまる子ちゃん好きの台湾の女の子のアイビーも、木の杖をひたすら作り続けてていったいなんの研究をしているのか最後までわからなかったキースも、いまなおフェイスブックの友だちではあるけれどまったく連絡をとっていないし、ぼくはフェイスブックでは英語を使わなくなった。

たぶんかれらに会うことはもうないだろう。この関係性はもう終状態になってこれ以上永遠に「とくべつ化」されないとおもうけれど、しかしそれは文章化するに値しないことだろうか、とふとおもう。いまのぼくにはとくべつがわからない。

 

「とくべつ」の見つけ方

いつかの情熱大陸で有名な音楽家が「とくべつ」を見つける方法を話していた。

なにがとくべつかわからなくなるから、毎日まったくおなじ生活をするようにしている、といっていた。

なるほどな、とおもった。

 

ともだち。

国文学者の友だちにあけおめメールを送った。

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かれはこの13年間ほんとうに変わらない。

変わらないからこそ、かれの話はいつもおもしろい。

 

けが。

おととい、ロックマンXをしていた。座布団の上で正座するスタイルを1時間ほどキープしてから立ち上がると足の感覚がまったくなく、気がついたら派手に転んで、左足に激痛。

骨は折れてなかった(ほんとによかった…)けれど、靭帯を痛めたらしくすごく腫れて靴が履けない。ロックマンでテンション上がりすぎたひとみたいで、ひとりで恥ずかしかった。

 

はじめていった整形外科はおじいさんとおばあさんでいっぱいだった。

 

あけまして

おめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。