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カプリスのかたちをしたアラベスク

小説とか映画とかアニメとかサブカルな文芸界隈。批評未満。すぐにおセンチな気分になる。ご連絡は machahiko1205★gmail.com(★→@)まで。

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ホームパーティー、あるいは空白をアルコールで満たしたい20代後半

写真(photos)

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 大学時代のサークルつながりの後輩の職場で、帰り道、駅のホームでお酒を飲むことを「ホームパーティー」というらしく、それがけっこう笑えて妻に教えてあげると、彼女はそれがえらく気に入ったようで、酒をひとりでひっかけて帰ってくることが多くなったのは1年前だった。別に飲んで帰ってくるのはぜんぜん構わないけれど、問題はぼくが酔っ払い的なノリがきらいなことにあり、それは妻であっても例外じゃない。しかし妻はといえば決して酒に弱くなく、むしろ強く、缶ビール一杯でようなんてありえず、それでもホームパーティーをして帰ってきたときはといえば、酔っ払いといっていいようなテンションで絡んでくる。おう、にぃちゃん、など。かたやぼくはお酒は弱い。缶ビール一杯あればべろんべろんになれる程度で、ひとにいわせれば安上がりらしい。

 1日の終わりにビールが欲しくなったのは博士課程の一回生、25歳になる年で、それまでぼくはひとりでお酒を飲むなんて習慣はなかった。週に一回、スーパーで金麦(ビールじゃないけどビールと呼びたかった)の6缶パックを買って、それを寝るまえに飲まないとなんか違和感があった。いまではこのことをひとに話すとき、
「なんか25歳から身体のつくりが変わるよね」
 みたいないいかたをする。そしたら同世代や歳上のひとたちはみんなだいたい頷いてくれる。だけど、いま振り返っておもえば、25歳という変化よりももっとおおきな変化がこの歳にはあって、端的にいえばさみしくなった、はずだった。当時まだ妻じゃなく彼女だった妻が就職し、離れて暮らすようになった年だった。彼女は神戸に住み、研修で数ヶ月北陸へいったりした。

 だけど、あの頃のことを振り返ってみても、さみしかったという記憶はほとんどない。神戸と京都では週末になれば会えない距離じゃなかったし、メールやら電話やらもあった。彼女のほうは違ったみたいだけど、彼女が北陸にいったときもさみしかったときのことを憶えていない。それはひょっとしたらさみしいとおもえた時間のことをぼくが忘れているだけかもしれないし、会えるのがあたりまえのひとがいないことになにもおもわないようにするためにビールを飲んだのかもしれない。ぼくにとって、25歳は空白がこわい年だったかもしれない。26歳になる年は5ヶ月ほどアメリカにいたけど、そこでも毎日、夜になればビールを飲んだ。そんなことをおもいだしていると、ああ、そうだった、とおもいだすのだ、あーいった日常の夜は、さみしくもなかったし、たのしくもなかった。可もなく不可もなく、日常だけがあった。そしてお酒を飲んでいないときはつらかったり、くるしかったりした。博士課程の3年は、おだやかにつらく、くるしかった。

 平日の酒をやめたのは、ことしの7月に入ってからだ。入社して3ヶ月たち、じぶんにできないことがわかったり、できないことをできるようになりたい意思もなくなり、ただひたすら思考力がおちている実感だけがあった。今日、今週会社をやめて転職するおばちゃんが、
「選ぶことは捨てることといっしょ」
 といって、それじたいぼくははじめておもったことではなかったけれど、やっぱり可能性は選ぶことによって間引かれていくということが切ないなとおもう。平日にお酒をのむことをやめたのも、そういう切なさを感じたくなかったからだった。考えないとされてしまったことを考えなくちゃならなかったし、また、考えなくちゃならないことを本気で考えなくちゃならなかった。
 考えること、はいまのぼくにとってとてもおそろしい行為でもある。考えることによって、ぼくは考えなかったことを切り捨てていき、そして考えなかったことに対して目を向けた時、それを考えることの無益さについて考え、はじめぼくが大事だとおもったものを否定的なことばでもって肯定しようとしてしまう、たとえばいまの仕事であったり、今後のぼくの無謀な生き方について。

 この前、平日の禁酒を破ってはじめてホームパーティーをした。

 家までいつもよりすごく長く感じて、目をつぶれば帰れないとおもったから、座れる席にも座らなかった。なにかをおもっていた気がするけれど、おぼえていない。その日は妻の方が帰りがはやかった。飲んできたといったら真剣じゃないかんじでおこった。
 わたしはこれからお酒を飲めなくなんやから、と妻はぼくがひとりでお酒をのむことが許せない。