カプリスのかたちをしたアラベスク

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【最近のできごと】

西崎憲主宰の電子書籍レーベル「惑星と口笛ブックス」より
小説・詩・短歌のアンソロジー「ヒドゥン・オーサーズ」が発売されました。
ぼくは大滝瓶太として「二十一世紀の作者不明」という短編小説を寄稿しています。

「波 2017年7月号(新潮社)」など、雑誌にもちらほら取り上げてもらいました。

また短編集「教育と育児」も好評発売中です!


【感想】きみを嫌いな奴はクズだよ(木下龍也)/飛躍と敷居、日常と戦場

歌集というものを、百人一首以外でははじめて読んだのかもしれなかった。

ぼくはいまでこそ詩集は読むけれども、詩というものを読まないひとからよく

「詩の読み方ってわからないんだよね。単純になにがいいのかわからない、否定的な意味じゃないんだけど、むずかしいって感じる」

というようなことをいわれる。だいじなのはこの「むずかしい」のなかにあって、これはほとんどのケースで、理論的な複雑さを意味することはなく、そもそもの考え方の部分にある、たとえば1+1をほんとうに2といってしまってもいいのかわからない、みたいな感じ。ぼくが短歌や俳句に関して感じていた「むずかしい」はそれだった。

 

小説や詩、そして短歌や俳句など一般に文学と呼ばれるものたちを「文章芸術」とくくってしまうことをぼくは好きじゃない、むしろ嫌いだ。ここであえてそれらを雑多な「文章芸術」というものたちが共通になすことについて考えるならば、それは距離を飛び越えることなんじゃないかと、ぼくはおもう。たしか、J. M. クッツェーの「エリザベス・コステロ」の冒頭はそんなことばから始まる、ある地点にあるわたしたちを別の地点に運ぶこと。もう読んだのがだいぶ前で、本も実家に置いてきてしまって、ずいぶんあやふやだけど。

そして短歌や詩の「むずかしい」は、飛び越えるべき距離や限られた文字数などの物理的な問題に置き換えてしまえばイメージはつきやすくて、短歌や詩は、なすべき跳躍を担保する負荷が、ことばひとつに対して重くのしかかってしまう。ことばがここではないどこかに跳躍するのことを「詩情(ポエジー)」というんだって、勝手にぼくはおもっている。そして大きな詩情に耐えられるだけの強さが、実は読み手にも求められる気がしてならない。詩情はたぶん作家に依存するものじゃなくて、地点Aと地点Bの関係により決まってくるもののようにおもえてならない。

 

 

木下龍也を初めて読んだ。

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短歌を読んだことのないぼくがこの歌集を知ったのは、下記のエントリーをたまたま読んで知ったからだった。

 

nina313.hatenablog.com

 

このエントリーの冒頭、

わたしは短歌のことを好いてはいるが、短歌のほうではわたしのことを好いてくれてはいない気がしている。

がやけに頭の中に残った。ぼくが好きなものがぼくを好いてくれないかもしれない不安は、ぼく自身がそれを好きと100%のぜったいで言い切れない時にあって、たとえ99%の確信があっても、残りの1%の「わからない」が重たい不安になって「むずかしい」になってしまう、このパーセンテージと不安の重たさは反比例してしまう、だから確信を持てば持つほど、ぼくが好きなものはぼくを好きじゃないかもしれなくなってしまう。

「きみを嫌いな奴はクズだよ」は、こんな距離を前提とした歌集におもえた。ここで詠まれる歌は様々にあって、どう考えてもふざけている内容であったり、社会の皮肉であったり、生き死にの境であったりする。ただ、どの歌にも、均等な重みを与えられている、Twitterのリツイートでタイムラインに飛んでくるくだらないつぶやきであり、世の中の動きであり、戦争であり、死者の声であったりするものが、同一平面上に、明確な規則もなくぶちまけられている。そしてその歌の配置が、詠まれた歌がそれぞれに持つ場所や距離を、群として超越している、しょくぱんまんが12枚切りの世界も、爆撃を受ける街も、レンタルビデオ店で借りた旧作を見る夜も、すべて同じものでしかない。

 

底から引き揚げられた車は

夢見るように海水をこぼしながらクレーンに吊られている

あの深い青は失われていて だけどそれがとても似合っていた

ここは天国じゃない 天国以外に行くあてはなかったはずなのにな

デジタル時計はずっとぶっ壊れていて 99時99分で時の積み重ねをやめてしまった

木下龍也,「きみを嫌いな奴はクズだよ」

 

 

作者のあとがき(詩)のこの最後の一連が、この詩集のそんな性格を表しているようにぼくは思った。

 

 

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