カプリスのかたちをしたアラベスク

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【最近のできごと】

西崎憲主宰の電子書籍レーベル「惑星と口笛ブックス」より
小説・詩・短歌のアンソロジー「ヒドゥン・オーサーズ」が発売されました。
ぼくは大滝瓶太として「二十一世紀の作者不明」という短編小説を寄稿しています。

発売翌日の2017年5月29日現在Amazonランキング「日本文学」部門で第3位!

また短編集「教育と育児」も好評発売中です!


苦労をありがたがるのは酒の席で/「〆切本」(左右社)

最近、文豪たちと〆切の関係を垣間見るような、こんな本が出た。

 

〆切本

〆切本

  • 作者: 夏目漱石,江戸川乱歩,星新一,村上春樹,藤子不二雄?,野坂昭如など全90人
  • 出版社/メーカー: 左右社
  • 発売日: 2016/08/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログ (4件) を見る
 

 

〆切にまつわる90人の文筆家のエッセイ集「〆切本」は、ものすごく製作者の熱意が感じられるいい本。夏目漱石や谷崎潤一郎、太宰治をはじめとして、谷川俊太郎や村上春樹など、日本文学には欠かせない人を網羅しただけでもすごい本だけど、「〆切」をテーマとしたユーモアもすごい。

〆切、といえばあまりいい思い出がない。

前職は毎週金曜日の午後3時が〆切だったため、何があっても金曜日だけは休んじゃいけないのはもちろんのこと、クライアントの原稿確認の催促、絶望的な修正、理不尽な発注変更、そういったものを瞬時に解決しなければならなくて、「〆切=戦争」というイメージが強い。〆切というのは編集側と出稿側とでは認識がぜんぜん違っていて、出稿側は割と悠長に構えがちで、編集はだいたいそれに振り回されると相場は決まっている。

そういう経験もあるせいか、ぼくは「〆切本」の華(?)でもある第1章「書けぬ、どうしても書けぬ。」では「何を寝ぼけたことを言っているんだ」「寝言は寝て言え」

というスタンスで読んでしまう。もちろん、各作家の個性がじゅうぶんに発揮されたユーモアあふれる文章はおもしろく、案外屁理屈ばかりのダメ人間が多いな、とおもえてまだもう少しぼくも生きていて良さそうな気がしてくる。

 

 

「〆切ゲーム」は楽しいか

興味深かったエッセイは村上春樹森博嗣だ。

この二人は〆切をきちんと守るタイプの作家なのだけれども、〆切をめぐる作家と編集者の戦争をこう書いている。

 

これでもし世間の作家がみんなピタッと締め切りの三日前に原稿をあげてしまうようになったら−−そんなことは惑星直列とハレー彗星がかさなるほどの確率でしか起こり得ないわけだが−−編集者の方々はおそらくどこかのバーに集まって「最近の作家は気骨がない。昔は良かった」なんて愚痴を言っているはずである。これはもう首をかけてもいいくらいははっきりしている。

村上春樹「植字工悲話」

 

締切に遅れているために、編集者は時間と交通費を使って何度も作家のところへ足を運ばなければならない。であれば、締切に間に合った場合に報奨金を出しても、編集部にとっては「余計な出費」にはならないはずだ(これは編集部も認めていた)。何故、合理化できないのか。彼らは、締切遅れの原稿を取る苦労を「美談」のように誇らしげに語る。酔っ払っているとしか思えない。

森博嗣「何故、締切にルーズなのか」

 

ぶっちゃけ、会社とかの飲み会で盛り上がるといえば必然的に仕事の話になるのだけれど(そういうことでしか盛り上がれない職場というのは、決まってつまらない人間の寄せ集めだという説もある)、こういう時はだいたい「仕事で間一髪トラブルを未然に防いだ」系のネタの出番である。残り5秒で入稿したとか、むしろ酒の席で「しか」笑えないような話題。

ただ、こういうネタはやっぱりそれなりにおもしろいのだけど、こういうネタを作ることはちょっと心臓に悪い。

原稿を落とす、なんてことはない方がもちろんいいに決まっている。だけど確かに、こういう話がない世界というのもちょっと不健康な気はする。人生、じぶんにはできないことの方が多いってことを考えると、だいたいのことは得意なひとにまかせて酒の席か本で聞かせてもらった方がいいかもしれない。当事者にならない、というのは何かと得をすることが多い。

 

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