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書かない、という選択/第53回文藝賞受賞作品「青が破れる」(町屋良平)

このエントリーでは小説「青が破れる」の内容についての言及を含みます。

ブログの更新をしなかった最近

ここのところほとんどブログを書いていなかったのは、べつの文章に注力するためだった。いまはひたすら一日いちにちを違いなくすごすことを必死に守っている。起きる時間も寝る時間も、はやすぎてもおそすぎてもいけなくて、すごす一日がとくべつであってはいけない。とくべつじゃない一日のなかで決まった時間にひたすら考えをつなげていくことがようやく身についてきたようなきがする。いくつか本も読んだ。あたらしいものは避けて、過去に読んだものを読みかえすことだけをした。

 

第53回文藝賞のこと

文芸 2016年 11 月号 [雑誌]

文芸 2016年 11 月号 [雑誌]

 

 

ことしの文藝賞の最終候補には友だちふたりがのこっていた。

受賞した町屋良平さんは3年前に知り合って、いっしょに同人誌「らくせん」をつくっていたひと(別名義)で、小説関係の友だちのなかでもとくに密に連絡をとりあうひとだったのもあり、うれしい、とか、めでたい、ということばではいいあらわせないくらいの感情があふれた。だれかになにかが起こることで、こんなにもいろんなことをぼくがかんじたりするなんておもってもみなかった。

「次点になりかけた」という金子玲介くんも3年前に知り合った友だちだった。選評を読む限りでは同時受賞するかしないかの瀬戸際だったようにおもわれたから、くっ……!とおもった。かれの作品「林冴花は宗教が苦手」について、いくつか言及したいことはもちろんあるのだけれど、こればかりは公開されていない作品ということもあり、ここでなにかをいうのは控えておく。ただ、ぼくはとてもおもしろく読んだ。

 

もちろん(!?)というか、町屋さんと金子くんどうしも面識がある、というかたいへん仲がよい。そんなふたりがおなじ賞の最終候補になっていたというのはちょっとしたバクマンみたいになっていたということなのだけれど、どうやらふたりはお互いが候補にあがっていたということが選考会が終わるまで知らなかったらしく、「世間というのは…」みたいなありがちなことをぼくはひそかにおもっていた。

ともあれ、ふたりのとてもおもしろい小説のおかげで、こちらとしても稀有な経験(!?)ができてよかった。

 

 

受賞作「青が破れる」について

「まちゃひこくん的には、空と青のどっちがいい?」

とLINEできかれて、青、とこたえた。春先にワードファイルで読んでいた小説がこうして文芸誌に掲載されるというのはなんだか妙な優越感がある。初めて読んだときはいくらか「とても良い」と言って、いくつか「これはさすがにどうかとおもう」という感想をいった。

この小説でぼくが一貫して素晴らしいとおもうことは、「書かない」という選択がかなり丁寧になされていることだとおもった。そしてこの「書かない」という技術からぼくはこの小説を読んであだち充の作品群を想起した。

「青が破れる」という小説の最大の特徴はみじかさにある。

そしてそのみじかい小説のなかで親友がトラックにひかれて死に、その恋人が病死し、主人公と肉体関係を持つ女性が浴槽で溺死する。選評でもこの点は言及されているけれども、みじかい小説のなかでこれを詰め込んでしまうことは「暴挙」であり、リアリティを激しく損なって、途端に作品を陳腐にしてしまう。しかし、「青が破れる」でそれができてしまったのは、その三人が死ぬシーンを一切書かなかったという選択のためだとおもう。そして「死の描写の省略」はこの小説の構造を象徴しているようにもおもえる。ほんらい、一般に小説というものは省略に満ちている。語り手の認識の運動に従って、ある程度恣意的にエピソードが切断され、物語の時間のなかに配列される。「青が破れる」はそこに極めて自覚的な小説だ。ひとがことばを持って思考し、会話のかたちでことばを交わす実感以外のほとんどを省略してしまっている。「一般的な小説」にあるもののどこか一部分をごっそりそぎ落とすことで、おぼつかない世界に実感だけが確かにあたえられるような独特の感覚を獲得しているとぼくはおもう。

 

 

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